近道の対価

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  おばあさんは何かを探しているのか、地面を見つめては数歩移動、を繰り返していた。健太は気にはなったものの、声はかけずに通り過ぎた。少し歩いてから振り返ると、まだおばあさんは同様の事をしていた。さっきは見えなかったが、表情には焦燥感があるように見えた。 「おばあさん。どうしたの?」  健太は戻って声を掛けた。おばあさんは健太を見上げる。 「人形を落としちゃったんだ」 「人形?」 「リュックにつけていたんだけど、気づいたらなくなってたんだ」  おばあさんは背負っていたリュックを下ろして健太に見せた。その後、話を聞いたところによると、人形は5,6cmの小さなもので、亡き娘の形見だという。  健太は迷った。探してあげたい気持ちはあるが、ゴールがあまりに遅くなりすぎてもマズい。誰かが様子を見に来て健太のズルが露見しないとも限らない。  だが、健太は結局こう答えていた。 「僕も探すよ」
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