近道の対価

1/10
前へ
/10ページ
次へ
 「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」  健太(けんた)は走っていた。  足が重い。わき腹が痛い。呼吸すら辛い。その様は学校指定のジャージに身を包んでいなかったら、不審者として通報されても仕方ないと思うほどだ。  野球部に入部した健太を待っていたのはランニング地獄だった。新入生は体力づくりという名目で、学校を起点に町内1周のノルマを課されている。  健太はこの長距離走が苦手だった。同時にスタートしたはずの他の大半の部員には早々に置いて行かれ、数少ない見えた背中もやがて見えなくなり、気づけばいつも孤独な一人旅だ。 「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」  ここからが一番きつい箇所だ。急な下り坂。下るということは当然……上り坂が待っている。しかも一瞬の下りに対して、上りは曲がりくねっている関係で長い。  でも、大丈夫! 健太は秘策を用意してきた。  平坦な道から下り坂に差し掛かるタイミングで健太は後ろを振り返る。  よし! 誰もいない!  健太は進路を変え、左手にある公園へ飛び込んだ。          
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加