2人が本棚に入れています
本棚に追加
【宮宿】
金山駅で集合して、東海道――現在の国道一号線を行く。清々しいほどの青空だ。明日の午後から雨が降るとの話だったが、それまでには辿り着いているだろう。万が一のこともあるが、ひとまずは今日降らなければそれでいい。歩き始めて一時間もしないうちに熱田神宮に到着した。旅の祈願には伊勢神宮然り熊野速玉大社然り、神頼みはしておきたいものだ。しかし本殿に向かうと、境内は人の波に覆われていた。
「……なんか、混んでるな?」
ゴールデンウィークだから、とも思えるが、それにしては人が多い。何やらイベントがあるのだろうか、参道の端にはパレットと絵具、画用紙を広げた子供たちが大勢座り込んでいた。
「絵描きのイベントですかねェ」
「本殿はいいヤァな、違う社に行こう」
と、探し見つけたのが南新宮社とある赤い社であった。賽銭を投げ入れて、ひとまずは旅の出発の報告のみを。出発しようとして、M後輩が携帯を構えていた。――が、何やら若い男女がのそりのそりと社の前に来てしまった。こちらに気づいていないらしい。しばらく待っていたが、画角から出ることはなく、後輩はシャッターを切った。
「残念だったな」
「最近テレビでもやっているでしょう、『消してやるのサ!』ッて」
「そんなに上手くいくものなのかねぇ……」
しばらくそうして格闘していたが、残念そうに画面を見せるばかりである。消えたは消えたが、背景にアラが目立つ。所詮は機械だ、期待するものでもない――と、声を上げたのは後輩だ。
「先輩、先輩」
多少背景は歪だが、随分綺麗に編集された写真であった。赤い社が、人のいた部分だけ若干薄赤になっているが、賽銭箱の輪郭や板目の模様もそれらしい。
「……いやァ、機械ってナメてたな」
「消してやれました」
最初のコメントを投稿しよう!