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真っ暗な夜の道。街灯もなく、まさに「一寸先は闇」だ。
普段から通学に使うこの道は、朝学校へ行く時は人通りも多く道も明るいため何も恐れずに進める。なんなら遅刻ギリギリで道のことなんて考えずに走って駆け抜けることの方が多いくらいだ。
しかし、部活帰りの夜の道は朝と比べ物にならないほど怖い。ビビリだと言われたって、怖いものは怖いのだ。前も後ろもろくに見えず、他の人も誰一人通らない。今も背筋には悪寒が走り、足も震えている。
カツン、カツンと履いているローファーの足音が響く。恐怖と寂しさが合わさって、気が狂いそうだ。
カツン、カツン、カツン、カツン。
カツン、カツン、カツカツン、カツカツン、カツカツン。
僕が足を止めれば、足音は止んだ。
再び歩き出せば、また足音が暗闇に響く。
カツカツン、カツカツン、カツカツン、カツカツン。
また、足を止める。足音は止む。
増えた。増えた。何が増えた? 足音。足音が増えた。
この道はずっと一本道で、曲がり角など無い。それなのに、突然、増えたのだ。
じわりと全身に汗がにじむ。それなのに体の芯は冷えきっていて、足の震えも酷くなる。もう、一歩も踏み出せやしない。前を見ても相変わらず暗闇が続くばかりで、人っ子一人見えない。後ろを振り返るなんて、もってのほかだ。
恐怖が限界まで達した頭は、冷水を浴びせられたかのように逆に冷静だった。人の後ろをついて来るなんて、普通に考えれば不審者だ。誰も通らなくても、親が警察に連絡すれば良い。善は急げとスマホを見れば、母さんから十件もの不在着信が入っていた。いつもよりだいぶ遅い時間になったから心配させてしまったのだろう。母さんの携帯に電話をかけると、1コールもしないうちに電話に出て、開口一番に怒られた。それをどうにか躱して事情を説明すれば、今度は大声で笑われた。嫌な気持ちにはなったけれど、今は誰かの声が聞けるだけでずいぶん安心していたのだ。
「それで、ついて来たって何なのよ」
母さんの声を聞いて安心したからだろう。そう聞かれて、先ほどまでの恐れを忘れて後ろを振り返ると、数メートル先で僕に手を振る幼い少年の姿が、はっきりと見えた。
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