0人が本棚に入れています
本棚に追加
数歩先を行く大きな鳥の、光沢のある黒い背中に水が跳ねて、雨が降ってきたのだと気づいた。
こんなところでも、降るんだなあ。
そういえば、カラスは雨に濡れているイメージがない。あの羽は水を弾くのだろう、便利だ。
私にもいつかその機能が欲しい。けど今は必要ない!傘をささずに濡れるのも、案外悪くないな。
私の白いシャツを染めている、乾きかけた赤黒い大きな汚れが、水を吸って滲んでいくのをぼんやり見つめた。
散々苦労した学校での人間関係、二週間で辞めた部活と三回で辞めたアルバイト、大学受験の全落ち。
歩いているうちに、今まで自分の愚かさが招いた数え切れないほどの失敗も、カラスの羽から滑り落ちる水滴のようにすっと静かに流れて、懐かしい思い出へと昇華されていく。
烏滸がましいかもしれないけど、私のことを大切にしてくれた人達にはやっぱり少し申し訳なく思う。
今回は無理だったけど、いつか堂々と歩ける人になりたい。
母がくれた「リンネ」という名前があるから、私は何度だって生まれ変わることができるはずだ。
見渡せば老若男女多くの人がこの先の見えない一本道を、だんだんと強まる雨に構うことなく、ただ前へと吸い寄せられるように歩いている。
誰のせいでもない。私は自分でここに来ることを選んだ。
肩の力を抜いて、軽快に行こう。
冒険家なのだから。
ここはたぶん終わりではなく、次の人生へと続く道。
最初のコメントを投稿しよう!