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ドライバーとして長距離を運転していると、必ず寄ってしまう場所がある。それはトイレだ。運転中にちびちびと飲み物を飲んでしまうから、意外とトイレが近くなってしまうのだ。それにこまめなトイレ休憩を挟むことは、長時間同じ姿勢でいることで発症するエコノミー症候群を防ぐことができる。
トイレがある場所はそれなりにあるが、長距離ドライバーは大概サービスエリアに駐車する。サービスエリアなら、車の中で仮眠を取ることもできるし、場所によっては軽食を取ることもできる。トイレだって広々としているから並ぶことも滅多にない。
僕はサービスエリアの雰囲気が好きだった。鬱屈とした社会から解放されている気分になれるからだ。サービスエリアはほとんどの人間が休憩をするために寄る場所だからか、みんなの顔が社会の束縛から解かれているように見える。普段は社会に従順するばかりの人間がサービスエリアへ来ると、誰の目も気にせず自分の意志で飯を食ったり眠ったりすることができる。そして、自分とゆっくり対話をすることができる。そんな気がしてならない。
僕は喫煙所でタバコを吸いながら、ちびちびと缶コーヒーを飲み、夜空に散らばる星を眺めていた。安堵と哀愁。一人、物思いに老けるとき、僕は常に二つの感情を同時に引き起こしてしまう。仕事をしている、それも自分にとってピッタリな仕事ができているという安堵。しかし、追いかけた夢を捨てたことに対する哀愁。「やりたいことと、できることは違う」。子供の頃には教えてもらえなかった現実を知ったとき、僕はシンプルに絶望した。冷静に考えれば当たり前のことだが、夢を叶える人間などほんの一部に過ぎない。それなのに僕は、漠然と夢が叶った自分ばかりを想像していた。だから夢が叶わずトラック運転手の仕事に就いたときは、樹海くらい深い暗闇に閉じ込められた気持ちになった。
ただ、今は精神的にも大人になり、「やりたいことと、できることは違う」という現実を受け入れることができたと思っている。だからこそ、この仕事を続けていこうという意志もある。トラックドライバーは大変だが、僕には向いていると思っているから辞めるつもりもない。
それでも、夢を諦めたという致命傷はどうしても癒えない。おそらく僕の心の中にある青春が抜けきっていないから、哀愁が生まれてしまうのだろう。安堵と哀愁。天職と叶わぬ夢。そのバランスをとって生きていくのは、意外としんどい。
きっぱりと割り切れればもう少し楽になるだろうけど、と僕は思いながら、二本目のタバコを吸った。
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