天気雨

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天気雨

翌朝、私は雨の音で目が覚めた。ベランダのコンクリートを打つ雨音。私は雨宮さんのことを思い出した。雨宮さんが泣いている気がした。 私は大急ぎで身支度をして、飯田君のアパートを飛び出した。足は、あの映画館に向かっていた。 映画は何も上映されていなかったけど、入口が開いていた。客席には雨宮さんが一人で座っていた。ここまで全力で走ってきたのに、何と声をかけていいか分からず私は立ち尽くしていた。 髪や、服の裾から雨水がぽたぽたと垂れた。 「びしょびしょじゃないですか。風邪ひきますよ」 雨宮さんが優しい声で言う。彼はいつも敬語だ。今になって気づく。 「タオルがあるといいんだけど・・・フロントにあるかな・・・」 「いいの。いいの。タオルなんかいいの。あたし・・・」 「いいんだよ。言わなくていい。僕が雨男だから、仕方がないんだ」 「そんなの関係ないよ。あたしが悪いの」 「いや。そうじゃない。僕は雨男で、君は晴れ女。そう言う家系なんだ」 え? 雨宮さんは何を言い出すんだろう。 「ちょっと待ってて」 雨宮さんはバスタオルを持ってきて、私の髪を拭いてくれた。洋服の上からぱたぱたと水分をとってくれた。しっとりとしているけど、温かい。 『慈雨』という言葉がひらめいた。そんな言葉どこで覚えたのか、使ったこともないのに。でも、彼の物腰は『慈雨』だった。 雨宮さんは話し始めた。
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