天気雨

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「僕の本当の仕事は『雨ごい』なんだ。僕は、必ず雨を呼ぶことができる。もちろん優しい雨だよ。ゲリラ豪雨みたいなひどいのじゃないんだ。植物が育つのに欠かせない雨を、僕は呼ぶことができる。僕は雨男の家系。君は晴れを呼ぶ家系」 「晴れを呼ぶ・・?」 「そう。雨男と晴れ女。晴れを呼ぶ方はあまり需要がなかったみたいだね。いつの間にか散らばってしまったけど、時々君みたいに強く血が出る人がいる。一目見た時に分かったよ。君が、僕たち雨男がずっと長い間憧れ続けた晴れ女だって」 「あこがれ・・・」 「うん。僕は雨男だから、太陽が出てるときは出歩けないんだ。家の中で想像するだけ。太陽ってどんな感じなんだろう。晴れ女ってどんな人なんだろう。僕だけじゃない。大昔からずっと、雨男は晴れ女のことを心の中で思っていた。まだ、血が濃かったころは顔を合わせても行けないって言われてたからね。だから君と普通に話ができて、本当にうれしかった。でも、君にとってはよくなかった。君はすっかり弱ってしまった」 「いや、違うって。私晴れ女なんかじゃない。そんな話聞いたことないもの。晴れてたのはたまたまだよ。別に弱ってなんかないし」 「僕といると、眠くなるでしょ」 え・・・。確かに。 雨宮さんと一緒に映画を見ていると、いつも眠ってしまう。目覚めるときは、今まで味わったことのないけだるさを感じた。 「晴れ女と雨男が一緒にいると、力の弱い方が生命力を吸い取られてしまうんだ。普通は雨男のほうが吸い取られてしまうんだけど、君はたまたま血が濃く出ただけだから、僕の方が強かったんだね。だから、僕が君の生命力を吸い取ってしまった。もう、これ以上は一緒にいられない。ごめんね。黙ってて。そもそも僕は君に声をかけるべきじゃなかった。僕はちゃんと分かっていたのに。君が何も知らないのをいいことに、巻き込んでしまった」 「ちがうって。あたしは晴れ女なんかじゃないってば。うちは普通のサラリーマンの家だもん」 「日向子さん。今まで泣いたことがないでしょ」  
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