天気雨

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私は言葉に詰まった。 確かに、私は泣いたことがない。学校の卒業式は、新しい人生の始まりだと思うと笑顔がこぼれた。恋人と別れるときは、いい友達にもどることができた。大好きだった飼い犬が老衰で死んだとき、私は最後の最後まで世話をして、息を引き取るときに抱きしめて、庭の木の下に自分で穴を掘って埋めた。一つの命を全力で見送った満足感があった。  私は泣いたことがない・・・。 「晴れ女は、泣かない。いつだって輝いているものなんだ。それが、君が晴れ女だって言う証拠なんだよ。君には笑顔だけが似合う。僕のことは、忘れて。君が本来あるべき姿に戻ってほしい。今までありがとう」 私は雨宮さんから押し出されるようにして、映画館を出た。まだ、雨が降っていた。優しく包み込むような雨。雨宮さんが降らせているに違いない。 雨宮さんが泣いているのだ。私は上を向いて、雨を顔に受け止めた。これは、私のための雨。それならば止まないで。いつまでも降り続いて。 いつまでも。いつまでも。 頬を、雨が伝う。温かい雨。いや違う、これは雨じゃない。涙だ。私は、泣いている。まだ私は、雨宮さんと一緒にいたい。別れたくない。 雲が切れて、さっと日が差した。でも雨は降りやまない。天気雨だ。この後はきっと虹が出る。 私は泣いている。晴れ女が泣いている。太陽が出ているのに、雨が降っている。私は(きびす)をかえした。 いいじゃないか。晴れ女と雨男でも。 今日の空みたいに、どこかで折り合える日もあるはずだ。 雨よ降れ。私がそれを照らすから。
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