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 兄が父の葬儀参列者へお礼の言葉を喋っている。 「結婚してから義理の父が亡くなり、義理の兄が亡くなり、義理の母が亡くなり、母が亡くなり、義理の弟が亡くなり、そして父が亡くなりました。そのたびに心にぽっかりと穴が空き……」  兄のその穴は子どもや孫ができることで自然と埋められていった、というような話に続いた。私自身は穴ができた感覚はない。私の中にあった父や母は変わらず私の中にある。たいして大きな面積を必要としていないからかもしれないが。  母も父も亡くなるまでの間一番近くに住んでいた妹夫婦が通ってくれ、面倒をみてくれた。母が死んで残された父の独り暮らしを支え、施設や病院との連絡もすべて彼女がやった。感染症対策で県外に住む兄や私は会うことも控えざるを得ない状況ではあったのだけれども。  それでも、感染症対策が徐々に緩和されて施設では少し離れてではあるが会えたし、病院でもリモートでの面会がOKになって間接的にではあるが会えるようになった。だが、兄は田舎の家に帰っていても父に会いにいくことはなかった。  2ヶ月ほど前からは危篤という状態によって面会もかなり自由にもなった。それで、兄に父を見舞うよう妹は言ったそうだが、結局、兄は病院へは行かなかった。  そんな兄のどこに穴が空くのかと思いながら私は挨拶を聞いていた。
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