ウクライナの自由の道

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 2015年8月、ウクライナは35度の炎天下だった。僕はその夏、ウクライナ人の友達のユーリーと一緒に、樺と杉の木が広がる森を歩いていた。 「ねえ、この森は、いったいどんな場所なんだい?」  そう聞いた台湾人の僕に、ユーリーが答える。 「戦争中、俺の曽祖父が身を隠した森だよ」  ユーリーの言葉は衝撃的だった。戦争中、身を隠す、曾祖父。教科書でしか聞かないような言葉が、僕の友達の口から出たことに驚いた。  ユーリーは185センチの大柄な体で、赤橙色の髪をしていた。まるで昔のヴァイキングのようだ。 「ウクライナ抵抗軍は二次大戦で戦ったんだよね?」 「そう。独立のために、ポーランド人やロシア人、そしてドイツ人と戦ったんだ」 「今、まさにここが、ユーリーの曾祖父が歩いた道なんだね」  ユーリ―は、抵抗軍の事を話すと、いつも誇らしげだ。だが、ウクライナ抵抗軍はヨーロッパでは、悪名もある。 「ユーリー、抵抗軍は独立のために戦ったけれど、その一方で、沢山ポーランド人やユダヤ人の平民を殺したと聞いたことがあるね……」 「ポーランド軍もウクライナ人の平民をいっぱい殺したぞ」  ユーリ―は急に不機嫌な顔を作った。彼は、ポーランドで働く予定がある。もちろん、ポーランド語も話せる。だが、ポーランドは、ウクライナ西部を統治した時に、かなり高圧的な政治を行った。そのせいで、いまもユーリーはポーランド人に嫌悪感を抱いているようだった。  木漏れの日差しは僕たちの顔に当たった。あまり台湾人が来ないウクライナに、しかも、西南部の森にある反乱軍の隠れ家を見学するなんて……。僕はここへ来た唯一の台湾人かもしれない。
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