ウクライナの自由の道

4/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「ソ連軍は抵抗軍を殺した後、彼らの死体をこの辺りの村に送った。そして、泣き出した人を抵抗軍の家族と友人だと認定して逮捕したんだ」  あの洞窟からの帰り道、ユーリーはそう呟いた。人相がわからないほど、黒焦げになった死体。それを載せた馬車。死体を見て、泣き出した村民たち。  この森の道が、「死と涙の道」と呼ばれる理由が理解できた瞬間だった。 「ウクライナ抵抗軍も、ただ、自由で幸せに生活したかっただけなのに」 「そうだね。みんな、僕らと同じ、普通の若者だった」 「今は、幸運だよ。だって、森の洞窟にこもって、ロシア人と戦う必要がないんだもの」  ユーリーはそう言って、2015年のウクライナの森で笑った。  僕は少し沈黙して、彼を見つめる。僕らが出会い、この森で一緒に自由を謳歌できるのは、抵抗軍のおかげだ。彼らはポーランド人とユダヤ人の平民を殺した残虐な一面があったが、元々求めるのはウクライナ民族の幸せだった。 「ウクライナ反乱軍は敗北したかもしれない。でも、ウクライナ人は彼らのことを、ずっと覚えているんだ。ここウクライナを、僕らが自慢の祖国だと思うことが、彼らの死に栄光をもたらすんだ」  ユーリーの言葉に、僕は、黒い記念碑を思い出す。あの黒い記念碑は、死を意味するかもしれない。でも、その傍にあった白い十字架は新生を象徴しているのだ。 彼らの犠牲のもとに、戦後、自由を謳歌するウクライナ民族が生まれたのだ。  僕はユーリ―と一緒に手を挙げて叫んだ。 「Слава україні!  Героям Слава! Україна, наша країна!」 (ウクライナに栄光あれ! 英雄たちに栄光あれ! ウクライナは僕たちの故郷!)  僕らが高く掲げた拳に、太陽の光が反射する。道がどれほど長くても、自由を求める人は終点に着くはずだと、その時の僕は、信じていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!