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それにしても──
「懐かしいな」
何故「そう」思うのだろう?
鳥居をくぐるごとに、故郷の──氏神が祀られている神社を思い出す。登るごとに山が深くなっていくあの感じが……どこか似ている。社と空が一体となって、より深い、深いところにまで引きずり込んでいくような威圧感。
奥へと進んでいくのに、だが一向に辿り着く気配のない参道。朱塗りの鳥居だけが鮮やかに聳える道を──俺はいまだ上へ上へと昇っていっている。
「このままでは月にでも行くんじゃないか?」
誰も聴く者のない冗談に、俺は笑った。
ああ、それも悪くない。仲間は、皆死んだ。可愛がった部下も。同じ飯を食い競い合った者たちも──皆。みんな。
俺もそこへ行くだけのことだ。
「また一緒に酒盛りがしたいなぁ」
あれはまだ俺が予科生だったときか。機銃の命中率が一番良かった隊に、褒美として一升瓶の酒を与えると上官が約束してくれた。あの時の酒は旨かった。一緒に呑んだ「酒は弱いが好き」と言っていた、あの気の優しかった中佐ももういない。
「積乱雲の中がこんな穏やかとは、みんなびっくりするだろうな」
搭乗員なら誰でも知っている。積乱雲の嵐渦巻く激しさを。上昇気流と下降気流が行き交い揉みくちゃにされたことは、飛行機乗りなら一度は経験することだ。
だが、ここはどうにもそれとは様相が違っているように思う。
「さて。いったい俺はどうして、こんなところを飛んでいるんだろうな」
鳥居越しに覗く空は、パラオで見た紺碧の海にも思えた。
果たしてここは空の中か海の中か。
俺は思い出せる限り、直前の記憶を探ってみた。
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