空戦

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空戦

 息を止め叩くように操縦桿を倒した。  踏み込むペダル。  左へ旋回。  かかる荷重に目が押し潰されそうだ。  視界は最悪。  それでも未来射撃でまだ敵機のいない空間に向かって発射把柄を握った。  右翼の二十ミリ機銃が火を吹けば一呼吸すら及ばずに、形勢は逆転。  敵機は音も無く錐揉(きりも)みしながら舞い落ちていった。  零戦のこの神がかり的な戦闘力よ。  脅威の旋回能力についてこれる機体など、この大空には存在しなかった。覇者として末路を見送れど、蟻が湧くかのように敵機が辺りを舞う。  二機に追われる。いつからかコイツらはこの機の弱点を知っていた。喰らいついてくる二機をなにくそと躱し続けるが、体力気力が消耗するのと、燃料が尽きるのと、どちらが早いか。  だが負けてなるものか。この零式艦上(れいしきかんじょう)戦闘機は、自らを先進国と名乗る世界に誇る、唯一にして無二の武器。他の何が劣ろうとも戦闘機パイロット(おれ)たちだけは絶対に負けてはならない。たとえ向こうがどれだけ新しい機を作ってこようとも、だ。  旋回を繰り返し一機を振り切る。残った一機に狙いを定める。衝撃と共に伝わってくる確かな手応え。  もうもうと立ち昇る黒煙と共に思わず息を吐いた。  興奮で上がる呼吸を、黙祷のような静けさで必死に平静に戻す。  俺は左失速反転でひねりこんでもう振り切った機の後方に取り付いた。  ──これは戦争なのだ。  照準器に大きく入ったそれを、俺は七.七ミリ弾で撃ち抜いてすぐさま次に喰らう機を探した。
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