胎内巡り

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 どれくらいそうして飛んでいた時だろうか。  同じ景色に辟易してきた時、声が聴こえた。 「お待ちしておりました」  すぐ隣に女性が座っていた。俺は心底驚いた。いつから? どうやって? なぜ気付かなかった?  そんな俺の疑問を打ち消すように、その女性はずっとそこにでもいたかのように自然にいる。  白無垢に角隠し。……婚礼衣装の女性? 操縦席に?  いやいや。あり得ない。そんな空間など、この狭いコックピットにはありはしない。  なぜならばコックピット(ここ)にはいつだって、不可侵の孤独が横たわっているからだ。戦闘機乗りは誰しも、その恐ろしいほどの孤独の中で本当の自分自身を知る。そう「ならさせられる」。  だがこれはいったいぜんたいどういうことだ。その女性は、確かにいまそこにいる。  爽やかな梢の薫りが漂う、たおやかな女性だ。気品があり、美しく、芯の強さを思わせる中に儚さをまとったその風貌は、どこか日本刀に似た鋭さも宿していた。そのあまりの美しさに、戦闘機乗りともあろう俺は思わずぽうっとなった。  が、すぐに我を取り戻し、居ずまいを正すように問いかけた。 「待ってた? 俺を? ……すまないが、どこかで会ったことがあるのだろうか?」 「まあ」  女性はキリリとした目をいっぱいに見開いて俺を見た。なんとなくバツが悪い。覚えていないことが悪いように思えてくる。女性は、一瞬かなしそうに目を伏せ、もう一度俺を見つめた。  俺も彼女を見つめ返した。見れば見るほどにこの世のものとは思えない美貌をたたえていた。 「約束しました。昔。わたしくを娶ってくださると」  記憶を探る。幼い自分を揺り起こしてみる。だが、それらしい思い出がどうにもないように思えた。そもそも農村の五男である俺は碌に学校も行っていなければ、誰かと遊んだ記憶もない。幼い記憶は(くわ)と土と、時々空を横切る戦闘機ぐらいだ。  女の子と知り合ったことなどなければ、以前勧められた見合いも全部断ってしまった。
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