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参道
積乱雲の中に大きな鳥居があった。俺は零戦でその鳥居をくぐっていく。まるで稲荷神社へお参りに行く途中のようだ。……雲の中というのに。
目の端を物凄い速さで流れていく雲と、時々その中で光るなにか。高度はどれくらいか、今どうなっているのだと羅針儀、気速計、あらゆる計器を見たが、どれも針が激しく揺れて読めなかった。
燃料計は空だ。当然だ。ここまで五六〇海里という航行距離を飛び、なおかつ空戦もこなしたあとだ。増槽などとっくの昔に落としている。
「どこまで登らせるつもりなのだ」
いつもは柔らかいはずの操縦桿が、溶接したかのように動かない。フットペダルを右へ左へと押してみたが、やはり同じだった。
もはや癖となった要領で点検をしてみてる。体に痛みや異常はない──良かった。
機体の点検をするため風防を開けて目を凝らす。奇跡的に思えるほど、機体は無傷の状態だった。右翼の緑と左翼の赤の端灯が大丈夫だと言わんばかりにチカチカと光っていた。
うむ、さすがは我が愛機。伊達にラバウルの時から乗っている訳ではない。一度は別れたものの、またこの機と再会できるとは思わなかった。
五二型より乗り慣れた二二型。やはり俺はこれが一番安心できる。エンジンの安定性も良く、いつだって……まるで俺を護るかのようにコイツとは幾多の戦場を駆け抜けてきたのだから。
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