私の前に道はある。私の後ろにも道はある。

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 道を歩いているといろいろなものが落ちている。  アパートの階段にはだいたいいつも訳の分からない虫が張り付いているのだが、今日は舗装された道のど真ん中にキアゲハ(アゲハ蝶のゴージャスさが少ないやつ)がぺたりと座り込んでいる。まったく記憶にないが、地面が湿っていることから昨夜雨が降ったのだろう。翅を拡げ、乾かしているらしい。乾かすのは結構だが、踏んづけられても文句言えないぞと(元より言えないけれども)そっと避けて前に進む。  道を歩いていると、向こうから真っすぐに進んでくる赤い姿がある。  横の側溝から出てきたのか、ダブルピースを掲げるくせに全然嬉しそうじゃない真顔でアメリカザリガニが歩いてくる。「やあ」とかあいさつでもしてきそうな勢いである。ここからメルヘンな世界が始まってもおかしくないような気持ちにさせられるも、やはり踏んづけられても文句は(以下略)と思いながら道を譲る。  山道に差し掛かろうというところで、ハンミョウと出会う。金属光沢のあるとても美しい甲虫で、似たものにタマムシ(玉虫色の回答とかで使われるそれ)がいるが、それよりも見た目がいかつい。別名ミチオシエ。ハンミョウは近付くと飛んで逃げるのだが、二、三メートルほどしか離れず、また近付いていくと、さらに二、三メートル距離を取るを繰り返すので、この動きがまるで道を教えているようだということでこの名前がついている。  当然の成り行きで、自分もこのハンミョウに誘われたのでついていってみたが、人の道(山道ともいう)を外れたため泣く泣く断念する。  帰り道は車に乗り車道を走る。こんなところにも「なぜ?」と思うようなもの(者)が落ちている。  まさかと思ったが、そこに確かにいたのである。イシガメが。  クサガメでも、最近ちょっとだけ話題になっているミドリガメ(本名ミシシッピアカミミガメ。赤い頬っぺたみたいな模様がかわいい)でもない、準絶滅危惧種のイシガメが「ちょうど今道路を渡り切りましたよ」という顔で道の端っこで首を伸ばしていたのである。  一瞬の邂逅だった。今も彼が元気に過ごしていることを願うばかりである。  このように、道を歩いているといろいろなもの(者)が落ちている。  どうせ明日も落ちているに違いないので、どきどきしながら(いろんな意味で)気を付けて歩こうと思う。
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