Extra.04 Not dramatic

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Extra.04 Not dramatic

鵜飼貴史は意外と大雑把だ。 あんな神経質そうな顔してるのに、おかしい。 仕事に関しては慎重かつ丁寧できめ細やかな手順を踏むのに、これが私生活となると一変する。適当に脱いだワイシャツは洗濯機の中に放置されたままで、電動シェーバーは出しっぱなし、朝には弱くて寝起きは最悪。 「なんで出したらすぐ片付けないんですか?」 「…あとでしようと思って」 すまない、と素直に謝罪を述べるが改善は促されないあたりに甘えを感じる。ひとり暮らしが長い割りに生活能力は極端に低いので、つまり面倒を見てくれる誰かがいたということの証左だろう。 そしてわざわざ考えなくてもその相手が誰かなど明白だ。恋人、またはそれに付随する相手。この見た目で自堕落な暮らしをされたら確かに面倒を見たくなってしまうのがわかる分、普通に複雑なのだけど。 「ワイシャツも皺だらけじゃないですか」 「フロントに届ければクリーニングしてくれる」 「すぐそんな楽ばっかりして」 「金で効率を買っているんですよ、俺は」 それで経済が回るんだから善行だと屁理屈を説く恋人を横目に、私は鵜飼が出しっぱなしのまま放置している電動シェーバーのコードをぐるぐると巻き、付属のケースの中に仕舞い直してゆく。鵜飼の金銭感覚は私生活になると驚くほどどんぶり勘定である。 「散らかってても気にしないんですか?」 「心苦しいなとは思ってるよ、洗面所に対して」 「…言葉選びが時々変ですよね、副社長は」 「だって洗面所の景観を損ねてる」 「なら片付けようよ」 一方の私は割りと綺麗好きなほうだという自負があって、中でも特に水回りは清潔にしていないと落ち着かない。なので鵜飼の損ねた洗面所の景観をせっせと整理整頓しながら、跳ねた水をさっと拭き取っておく。
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