7892人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺にだってスローセックスの引き出しもある」
「なかったでしょう、どこにも」
「まだ君には披露してないだけですよ」
「はいはい」
適当に鵜飼のおねだりをいなして洗面所から追い出した私は、鏡の前でメイクを始める。土曜日の今日は鵜飼と映画に行く予定だ。
本日公開初日のその映画はカンヌ映画祭で絶賛された秀作だと前評判も良く、予告を見たときから楽しみにしていたから嬉しい。鵜飼は絶対興味のない恋愛映画に粛々と付いてきてくれるのは多分優しさだ。
「これってフランス映画?」
六本木の商業施設内にある映画館は、名画座とは打って変わって近代的だ。売店で鵜飼に買ってもらったポップコーンとドリンクを持って劇場内に入った私たちは、予約していた通路側の端の席に腰を降ろした。
「いえ、制作国はイギリスのはずです」
「フランス映画が好きなんじゃなかったっけ?」
「どこの国のものでも面白ければ好きです」
「まあそりゃそうか」
昔からフランス映画特有の抒情的で耽美な描写や極限的な愛の形を描き出した作風が好きではあるけれど、別にどこの国で作られた映画かという点にこだわりはない。
単純に好きだなと思った映画を振り返ってみるとフランス映画が多いというだけで、例えば『めぐり逢えたら』はアメリカ映画だし、『プライドと偏見』はイギリス映画だけど、私はそのどちらも大好きだ。
最初のコメントを投稿しよう!