海に浮かぶ道の先に

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 夜明け前に出発したから、家に帰ってきた時もまだ早朝と呼べる時間帯だった。  行きとはうって変わって上機嫌にしゃべり続けた真奈美を家の前に降ろして、家に帰る。  バイクを玄関の中に押し入れると、道場の方からドンと床を踏みしめる音が聞こえてきた。  ぎゅっと胸を鷲掴みにされるような気分のまま、自分の部屋に駆け戻る。  クローゼットを開けると、2年近く身に着けていない袴が畳んでしまわれている。  それから、刀。高校生になった時に親父から買ってもらった刀が丁寧に置かれていた。  そっと刀を手に取ってみると、しばらく触っていないにも関わらず鞘からスルリと抜けた。  まるで、俺が手に取るのを待っていたような――いや、これは。  刀にはきちんと手入れが行き届いていた。  多分、俺が刀を置いて福岡に行ってからもしっかりと手入れが続けられていたのだろう。  誰が? 決まってる。  決して俺に居合をやれとは言わないけど、いつでもこの道に戻ってこられるように。  久しぶりに身に纏った帯は少しだけ窮屈だったが、ぎゅっと身が引き締まる。  小さく深呼吸をして、刀を手に取る。胸の奥の方がザワリとする。やめておけと心が騒ぐ。  真奈美と比べれば、俺の剣は勢いだけの荒っぽいものかもしれないけど。  道の先がどんなふうに繋がっているかなんて、進んでみるまでわからないから。 「おはよう、親父。久しぶりに稽古つけてくれないか?」  一礼して、忘れていた一歩を踏み出した。
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