従兄弟の背中

13/13
前へ
/13ページ
次へ
僕は去り際に疾風の背中へ目を向けた。 あれだけ焦がれて、あれだけ必死になって追いかけていた従兄弟の背中は広く逞しくはあるけれど憎しみも恨みも妬みも感じる事はなかった。 母は僕の進言に「わかった」と一言呟いた。 そして疾風に向けていた眼と同じ眼を僕に向けた。 僕は僕自身が本当に手に入れたかったものがなんであったかをこの時やっと自覚した。 母の愛情あふれる眼差し。 これが僕が従兄弟の背中を追いかけ手に入れたかったことだ。 人は自己の感情を自覚すれば手放す事ができる。 かつて必死に追いかけた従兄弟の背中があったから今の僕がある。 「これから何でも追いかけることができる・・・・」 僕は屋敷の玄関を出ると晴天の空に左手を目いっぱいかざした。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加