従兄弟の背中

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あれから8年が経った。 僕は大学卒業後、吉祥家が経営する商社に籍を置いた。 風雅の部下として実績もそれなりに残してきたと自負している。 父が他界した後、当主となった母が吉祥家一門を率いた。 疾風と美月は彼らの両親が携わっていた里山プロジェクトを成功に導き、この5年で拠点を増やし続けている。 疾風が吉祥分家の筆頭としての役割を逸脱することはなかった。 僕は風雅にした宣言通りに疾風の背中を追いかけず、自らの道を、吉祥本家の後継としての役割を見失わずに歩んでいる。 「ふぅ・・・・」 僕は応接室から聞こえてくる母と疾風の声を前に一つ息を吐いた。 「涼、入ってくれっ!」 疾風が僕に入室を求める声を上げた。 疾風から助力を求められ今僕はここにいる。 僕はこれから次期当主として現当主である母に進言する。 疾風の背中を追いかける事を止めたからこそ手に入れることができた吉祥本家の次期当主の座。 初めから目の前になどなかった従兄弟の背中。 「失礼します」 僕は静かに応接室の扉を開けた。 母が驚いた表情を向けた。 「なっ、なぜ?あたなが・・・・イギリスにいるはずじゃ」 そう、この母の表情に僕は子どもの頃から胸を痛めていた。 僕は帰国の理由を告げ母に手元のタブレットを差し出した。 母が決めた美月との婚約を撤回させる方策と僕が決めた婚約者を了承させた吉祥家64家門当主の署名。 初めて目にする蒼ざめた母の顔。 僕をいる母親の顔に思えた。
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