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現世への帰還
「私の目の前で、してはいけない事をしたあなたたちですが、十分反省をしたようですね。そろそろここから出ましょう。ここは、現世とは違う世界です。長い間留まると帰れなくなります。さあ、私の手を取って」
三平は、左手で三つ辻地蔵の右手を、秀子は右手で左手を握りしめた。
「目を閉じて、しっかりと握っているのですよ」
秀子が目を閉じようとした時だった。足をつかまれた。菊子だ。淋し気に秀子を見上げている。秀子は、三つ辻地蔵の顔をみた。うなずいて静かに微笑む三つ辻地蔵。
秀子は、空いている左手を菊子に差し出した。すがり付くようにして手を取る菊子。それを見て三平も空いている右手を出した。菊子は、左手でその手を握りしめた。
三つ辻地蔵、三平、菊子、秀子は手をつなぎ合い輪になった。
「よろしいですか。帰りましょう現世へ。ひの、ふの、みい!」
三平は、左手の感触が何もない事に気付いた。そして、ゆっくりと目を開ける。そこは、三つ辻地蔵の祠だった。
「おい、秀子! 俺たち戻ったぞ。祠だ」
その声に、秀子も目を開く
「ホントだ。戻ってる。お地蔵様は?」
三つ辻地蔵は、祠におさまっている。
「菊子は?」
秀子は、自分の左手を見た。秀子が握りしめていたのは、白骨化した子どもの右手だった。三平も右手に同じく子どもの左手の骨を持っていた。
「菊子ちゃん、帰ってこれたよね」
秀子が、三平の持っている骨を見て言った。
「うん。他の骨は倒木の下だから、そこから出してあげれば成仏できるよ」
「もう一人ぽっちで淋しい思いをしなくてもいいんだよね。ちゃんと供養してもらえるんだよね」
「そうだな。何だお前うれしいのか? あんな恐ろしい目にあったのに。自分が死ぬところだったんだぜ」
「怖かったよ。ホント死ぬかとおもった。でも同じ思いを菊子ちゃんもしたかと思うと悲しくなって」
「そっか」
2人は、菊子の骨を三つ辻地蔵の前に置き合掌した。
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