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やばいあいつ
「ここは?」
秀子の前に現われたのは、直径50mほどのすり鉢状の草地。秀子の背丈ほどの葦のような草が生い茂っている。すり鉢の底付近は水があるのか陽の光をチラチラと反射している。秀子は、足元を確かめながら草地に踏み込んだ。下り斜面で滑ったり、足を取られると言う事はないようだ。
「おーい! 三ちゃーん! どこだー」
壁のような草をかき分けながら、進む秀子。時折、草を踏む音が聞こえる。三平だろうかと、秀子は耳を澄ませた。すると、ほぼすり鉢の中心辺りから草を引きちぎるような大きな音が聞こえてきた。ブチブチと草を引き抜きながらこちらに近づいている。
「三ちゃん? 三ちゃんなの」
秀子が、近づく音の方へ行こうとした時だった。突然腕をつかまれる。
「ひや!」
飛び上がるほど驚いて誰かと見ると、泥にまみれたゾンビ!
ではなくよく見ると、泥まみれの三平だった。
「三ちゃん!」
秀子の声には答えず、腕を引っ張って走り出す三平。今にも泣きそうで、怯え切った顔をつきだ。
「どうしたの三ちゃんその恰好。でも会えてよかった。ここどこ?」
「多分三つ辻地蔵の後にあるため池だと思うけど、異世界みたいな違う所かも」
「ため池? でも水がないじゃん。それに三ちゃん何でそんなに泥だらけなのさ」
「しっ!」
三平が指を立てて秀子の言葉を遮る。さっきの草を引き抜く音が近づいてくる。三平が再び秀子の腕を取りその場をはなれた。追って来る音から離れたところで二人はしゃがみ込んだ。
「なるべく音をたてないよう気を付けろ。あいつに見つかったらやばいからな」
「え? え? 何、何、あいつって」
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