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三平の悔恨
「きゃああああ! いやだあああ」
秀子の叫び声。三平の足は、自然に声の方に向かっていた。
「秀子! 今行くからな」
おそらくあの小鬼が泥水に引き込もうとしているに違いない。三平にもう迷いはなかった。草をかき分けることもせず切り傷まみれになりながら三平は、悲鳴めざして走って行った。
「いた!」
「三ちゃん! もうダメ……」
泥の水たまりに秀子は胸まで浸かっている。小鬼は、秀子の頭を押さえて下へ下へと押し込む。周りの草を握って耐えていた秀子だが抵抗も限界がきているようだ。ズルズルと沈んでいる。
「秀子を放せ!」
三平は、小鬼のぼさぼさの髪をつかんで引っ張る。
「きゃ!」
小鬼は、意外にも黄色い悲鳴をあげた。効果ありと見た三平は、さらに力を込めて引っ張る。泥水の2人の体が少し岸側に上がって来た。
「秀子は、渡さねえぞぉ」
歯を食いしばる三平。
「この子は返さない! もう一人はいや!」
悲壮感のこもった小鬼の意外な叫び。
「え?」
その声に一瞬三平の手の力が抜けた。小鬼の髪の毛がスルスルッと三平の手から離れる。その隙をついて小鬼は、三平の手首をもつかんで来た。
「うわ!」
ぐいっと引っ張られ三平は、勢い余って泥水に頭から浸かってしまう。小鬼は、すかさず三平の頭を押さえて沈めにかかる。右手に秀子、左手に三平と2人の子どもを嬉々として沈めようとする小鬼だった。
「わーい! 2人もお友達が来てくれた。うれしいな」
「いやだあああ。もうだめぇ……」
秀子は悲嘆にくれる力しか残っていなかった。三平は、そんな秀子の手をとって叫んだ。
「ごほごほ、ゲホ。くそお! 秀子ぉー。ごめんよ。俺がしてはいけないことに誘ったばかりに、こんなことになっちゃって。三つ辻のお地蔵様! 悪いのは俺なんだ。秀子だけは助けてくださあい。お地蔵様ごめんなさい!」
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