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三つ辻地蔵
「はい、みなさんね、ここがね、『止まらずの三つ辻』です。でね、ここにある祠にいらっしゃるのが、『三つ辻地蔵さん』です」
里竹町子ども会会長が長い顎髭を触りながら、小学生5人を前にして言った。男子3人女子2人。
ここは、郊外の小さな集落。この町内の子ども会に所属する小学生は、5年生になると郷土愛を育むと言う目的から、子ども会会長から地元の名所旧跡の説明を受ける。良く晴れた5月の日曜日、小学5年生には、あまりウケる行事ではない。そろそろ子どもたちが、歩く事にも飽きて来た頃だ。
初老の会長は、T字路で立ち止まり語り始めた。いままでとは、違う低く重い声だ。
「みんな、三つ辻ってわかるかな?」
女子が手を挙げていきなり答えた。
「はい、3本の道が一つに交わるところです。ここはT字路の様です。東西に延びる道に南から一本の道が突き当たってTの形です」
この5人では一番成績優秀な野口秀子だ。
「そうです。その南からの道の突き当りにね、小さな祠があるじゃろ」
50㎝四方程の祠でちょうど子どもたちの胸のあたりに屋根がある。祠は、3本道のぶつかる位置にある。祠には、赤いよだれかけをして右手には錫杖を持っている地蔵菩薩の石像が安置されていた。優しく微笑む顔。地蔵菩薩は、子どもを助けてくれる菩薩でもある。
祠の後ろは、ため池の堤防の斜面になっていた。雑草が茂るきつい斜面で、壁のようになっている。
そこを登ると小さな池がある。昔この近くで遊んでいた少女が、行方不明になった。遺体は見つかっていないが、おそらく池に落ちたものと思われた。池に少女のかぶっていた麦わら帽が浮いていたからだ。少女の供養のためにこのお地蔵を立てた、と会長は説明した。
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