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金曜日
《金曜日》
洋平はツキを連れてホテルをチェックアウトし、昨日の動物病院にツキを預けた。
不動産屋へ行き、ペット可で今すぐ入居できるアパートの物件を内覧せずに契約し、今のマンションは今月いっぱいで退居する旨を伝え契約を解除する。
「今の部屋に置いてる家具は、そちらでどう処分してもらってもかまいません」
と洋平が告げると、対応した担当者は、わずかに眉を上げただけで
「ではこちらの書類が、家財処分の委任状ですので、サインと印鑑をおねがいします」
すんなり話が通った。
マンションの鍵を返して、新たに契約したアパートの鍵をもらう。入居先の契約書の住所を暗記すると、洋平は転居届を提出するために、役所に行った。
諸々一気に済ませたが、それでも午前中を費やした。役所の待ち時間は異常だ。午後は転居先の役所へ行き、転出証明書を提出した。
それから携帯ショップを訪れ、電話番号と住所を変更する。
嵐のように事務手続きを一日で済ませたが、引っ越したことは親にも教えなかった。
ホームセンターでツキに必要なものを揃え、ようやくツキを迎えに行った。
がらんとした新居で、ストレスしかなかった一週間から解放されて、洋平はアパートのフローリングに大の字で寝ころんだ。
園谷がどうなろうと
「あとのことなんて知るかよ」
と声に出したら、可笑しさがこみ上げてきた。
きっと今ごろ、行くアテがなくなった園谷は、どこかの誰かの住まいの道路で、先週の土曜日に洋平の前に現れたときのように、倒れて拾われるのを待つのだろう。
園谷を拾った、あの日に戻るとしたら
「助けてはいけないやつもいる」
と、自分を止めるだろう。
「もう道に落ちているものを迂闊に拾わない」
ツキを撫でながら言う。
洋平は静けさの中で、やっと肺まで酸素が行き渡ったような感覚で、はじめて呼吸を味わった。
【了】
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