3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
火曜日
《火曜日》
めずらしく園谷が朝、起きていた。
もう口もききたくないので、園谷はいないものとして、洋平が出勤の支度をしていると
「加苗くん、なに怒ってんの? ねぇ、ちょっと話があるんだけど、聞いて」
「なんですか。まず昨夜のことを謝るなら聞きます」
園谷がしおらしく「ごめん」と頭を下げた。
「で、話なんだけど。中学時代の仲間でさ、梨岡くんていたじゃない、覚えてる?」
頷いた洋平を見て園谷が続ける。
「実は俺、梨岡くんに三万円貸してて、戻ってきてないだよね。それで加苗くんが、その三万を俺に返して、加苗くんが梨岡くから取り立ててよ」
「は?」
さもいい提案をしているふうであるが、園谷しか得がない。この話が噓なら、洋平は三万の損だし、本当だったとしても、園谷に返ってこない三万を、梨岡が洋平に返すわけがない。
「は?」
二度目の聞き返しに園谷は、理解力がないと思ったらしく同じことを言う。
「だから、加苗くんが俺に三万を」
「言ってることはわかっているので繰り返さなくていいです。債権譲渡ですか」
「そう、勘がいいやつは話が早くて助かるわ」
「何を言ってるんですか。本当に意味がわからない。梨岡さんとは当時も今も親しくないので、取り立てなんて無理です。お断りします。この話は二度としないでください」
バッサリ会話を打ち切って、出勤した。
苛立ちで頭痛してきた。
最初のコメントを投稿しよう!