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「見えないね」
「見えたらよかったのにね」
二人でそう言って笑い合う。もうそれしかできないから。
これが普通なのだと思っていた。運命なんて劇的なものは信じていなかった。だから告白されて付き合って、友達よりもちょっと特別なところに相手を置いて、それが好きだということで。
ずっとそう思っていたのに。これは誰のせいでもない。あなたは悪くない。相手はもっと悪くない。
二人してそう、好きだということをこんな風に思っていたから悪いんだろうか。でも知らなかったんだ。人が人を好きになることがこんなに劇的で、物語にしかないような運命としか言いようがないこれが自分の身にも降りかかるものだなんて知らなかった。両想いという言葉がこんなものだなんて思ってもいなかった。
二人して帰る場所があった。自分の選択で形作られた家があった。正規の手続きすら待てないという点では確かにこちら二人が悪いだろう。でもそれを仕方ないと思ってしまうくらいのものだったんだ。二人ともそうだったんだ。相手もそうだったのだろうなとは思う。片方だけだったけれど。多分今もそうだろう。だから二人は正規の手続きを待てないと思う。いつまでかかるのかわからないから。
二人が、二人で、二人として歩いて行ける道はまだ見えない。そんなことにかかずらっている暇はない。
だから二人で見えないことを確認し合って、そうして笑い合うしかない。でもそれを選ぶのがこの二人だと誰に主張しているのかもわからないまま呟いた。
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