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あるところに2人の旅人がいた。
彼らは、”前向きな旅人”と”後ろ向きな旅人”という正反対の性格をしていた。
前向きな旅人は、その決断力と時に楽観的ともいえる行動力で先々の行路を切り拓き、後ろ向きな旅人は、冷静さと慎重過ぎる判断力でいくつもの危機を回避してきた。正反対の2人だが、互いの良し悪しを補い合い、旅をしていた。
何度目かの山を越え、何度目かの森を抜けた頃、旅人たちは2つに分かれ道にたどり着いた。
右に続く道と左に続く道のはじまりにはそれぞれ看板が立てられていた。
右の看板には“遠く、愉快な道”。
左の看板には“近く、険しい道”。
「”愉快な道”とはなんだろう」
「”険しい道”は辛い、大変な道ということなのだろうが、”愉快な道”は想像がつかない」
「試しに行ってみようか?」
「またそうやってお前さんは無鉄砲に。どんな道かもわからない上に”遠い”のだぞ」
「”険しい道”よりはいい気がするよ」
「どちらが進むのにより適した道かしっかり考えてから進まなきゃならん」
「そんなに難しく考える必要はないと思うけれどなぁ」
最後まで意見が分かれたため、前向きな旅人と後ろ向きな旅人は別々の道を進むことにした。
「わざわざ遠回りをするなんて、物好きなやつだ」
後ろ向きな旅人はそう言い残すと、左の道へと消えて行った。
残された前向きな旅人は、後ろ向きな旅人の背中を見送り、つぶやく。
「どうして彼は険しい道を選んだのだろう。短いとは言え、辛く苦しい道になることがわかっているのに、不思議だな」
そして反対の道へと歩みを進めた。
「右の道なら、楽しい時間を”より長く”過ごせるのに」
完
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