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2.油揚げをくわえるお狐様
「そんなの食ってたら腹壊すよ!」
そう言うと、彼はキョトンとしながらもくわえていた油揚げをようやく離した。どうしてもいるならこれを持っていけ、と今朝のお供えのを差し出す。すると……
「今日の分だ! ありがとう」
金色の瞳の彼は、笑いながら意外にも低い声でそう言った。そして彼は自分が何者であるかを話した。
「お狐様」
「そう」
祠の横にある腰掛けることのできる大きな石に二人で座った。みるからに日本人離れした風貌の彼は、自分はこの神社に祀られているお狐様だと言い出したのだ。
「……」
口を開けてその顔を見ていたら、彼はハハッと笑う。
「信じてないね、みずほ」
突然名前を呼ばれて、俺は驚いた。何故名前を知ってるんだろうか。
「のぞみは元気? まだみずほが赤ちゃんのころからここに油揚げ持ってきてくれてだっけなあ」
息を呑む俺に、彼はトドメを指す。
「つばめはもう大きくなった? 泣き声がかなり元気な子だよね」
「……分かったよ、信じる」
「あら、嬉しい! じゃあさ、ちょっとお母さんに伝えておいてくれる? 油揚げもう少し味を染み込ませてほしいなー。ばあちゃんのは絶品だったんだけど」
お狐様ははっはっはと笑う。どうやって母に伝えたらいいんだよとため息をついた。
「分かった……けど前日のを食べるのは……」
神様といえど、体に悪い気がするし。風が吹いて頬を撫でる。
「じゃあみずほが来たら、すぐ食べる」
にっこりと微笑んだ顔。銀色の髪が朝日をうけてキラキラ輝く。何故か俺はドキドキしてきて目を背けた。そしてこの日からお狐様と毎朝会うことになったんだ。
翌朝、もしかしたらいないかもしれないと思いながら神社に行ってみると、お狐様の姿はなかった。やっぱり夢だったのか。ホッとしながら皿に油揚げを置こうとしたら……
「おはようみずほ」
「ひぇっ」
足音もなく背後から話しかけ、思わず油揚げを落としそうになった。振り向くと昨日と同じ服装のお狐様がいた。
昨日、家に帰り兄貴に相談してみようか悩んだけど、逆に心配されてしまう気がして話せなかった。
「……おはようございます、えと」
「シロでいいよ。僕白いでしょ?」
そういえばこの神社は『白狐』を祀ってあるんだと聞いたことがある。だからシロなんだろうか。それにしてもお狐様を呼び捨てにしてもいいのだろうか……。
するとお狐様……シロは両手を目の前に差し出してきた。
「?」
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