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「今日の、ちょうだい」
子供みたいにおねだりをしてきたシロに俺はギョッとした。綺麗な顔をしているし完全に男だし神様(多分)なのに……可愛い!
「ああ、ごめん!」
慌てて油揚げを手にして渡そうとすると、近づいてきて少しかがみ、俺の手から直接油揚げを口でくわえた。その行動にまた俺はドキドキしてしまう。大判の油揚げを器用に食べていく。スルスルと油揚げはシロに飲み込まれてあっという間になくなってしまった。
「んー、美味しかった!」
食べ終わるとシロは嬉しそうに笑う。ふと見ると着物から尻尾が出ていて、それがふよふよと左右に動いている。まるで犬みたいに。俺はそれが面白くて思わず笑ってしまった。
「なに?」
「犬みたいだなあって、尻尾」
するとシロはそのふさふさの尻尾をぐいと前に引っ張って、両手で擦り始めた。何だろうと思っていたら、突然尻尾の先端に炎が浮かび上がった。お狐様は火を操ると聞いたことはあるけど、ほんとなんだ!
「犬じゃできないだろ、こんなの」
「うんすげぇ」
それから毎朝、シロに油揚げを美味しそうに食べた後、大きな石に座って二人で話するのが日課になった。シロはささいな日常の話を興味深そうに聞いてくる。学校の話は特に目を輝かせていた。神様は学校なんてないだろうし、きっと暇なんだろう。もっと遊べたらいいのだけど、さすがに神様に遊びに行こうとは言えなかった。
部活の話、授業の話。友達との馬鹿騒ぎの話……その度に、シロは笑いながら俺の話を聞いていた。
「みずほ」
昼ごはんの材料の買い出しを母親に言われスーパーでうろついていると、声をかけられた。振り向くと健二郎とその幼馴染の豊がいた。二人はもう真っ黒に日焼けしている。野球部はやっぱり大変だあ。今も大きなスポーツバックを持っているから、夏休み練習の帰りなのだろう。
「おつかれ」
俺がそう言うともうクタクタだ、と二人。立ち話をして数分。何かを思い出したように健二郎はニヤニヤしながら言ってきた。
「そういえば俺ら今からお楽しみなんだよねー」
そう言いながらスポーツバックを漁り、チラッと見せてくれたのは……DVDだった。パッケージには胸をあわらにした女の子が印刷されていた。
「ちっ、ちょっとこれ!」
いわゆるアダルトなDVDであることはさすがにわかる。
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