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16「星に願う -3- 」その後
エレベーターの中。沙菜が三野の胸に頬を寄せ、甘えていた時である。
突然、ガタンとエレベーターが下降し始めた。
そこで二人はようやく、この場所がエレベーター内であったことを思い出す。
当然、二人ともボタンを押していない。なので誰かがエレベーターを利用する目的でどこからかボタンを押し、稼働し始めてしまったようだ。
エレベーターは1階で停まり、ドアが開く。
「お疲れ様です! ……ん?」
現れたのは夜警さんだった。中にいる二人に向かって元気に挨拶したものの、何やら気づいてしまったらしい。
そう。稼働していないエレベーターに人が乗っているのは、はっきりいって、不自然である。
どうしましょうと沙菜が三野を見上げる。
「えっと、お疲れ様です。今夜は涼しくて過ごしやすそうですね。あ、これ差し入れです」
三野はなぜかコンビニの袋を夜警さんに手渡し、笑顔を向けたままエレベーターから降りる。
「は、はい! ありがとうございます! 三野先生も当直お疲れ様です!」
夜警さんは頭の上に疑問符が浮かんでいそうだが、追及しては来なかった。
沙菜も頭を下げ、そそくさとエレベーターから降りる。
「先生、すごく演技が下手です」
「演技のしようもないだろ……」
三野は困ったように笑う。
それから二人は職員玄関までやってくる。
「こんな時間に帰るのは危ないよ。今、タクシー呼ぶから」
「大丈夫です。稀葉先生が車を手配してくれているんです」
沙菜は事前に三野に会いに行くことを稀葉に相談していたのだ。そのため、稀葉は会議で夜遅くまで残っている狗飼と沙菜がはちあわないように上手く彼を誘導してくれていた。それだけでなく、ちゃんと帰りの手配もしてくれていた。
「機転が利くね。この先、稀葉君には頭が上がらないな」
「はい。私もです」
沙菜が頷く。三野の腕をギュッとつかんだ。
まだ、離れたくなくて足が前に向かない。
病院を出てしまえば、また二人は離れ離れになってしまう。
離れがたい気持ちはお互いきっと一緒だろうが……。
「……」
沙菜の気持ちを察した三野は、そっと彼女の手を取って玄関とは反対の方向へと歩き出す。
「先生……?」
連れて来られたのは、非常階段。
すでに消灯時間が過ぎているため、小型のダウンライトが薄く辺りを照らしているのみ。
非常階段の扉を閉め、二人だけの空間になると三野は再び沙菜を抱きしめた。
「愛してるよ」
そっと耳もとでささやかれ、沙菜は嬉しさと恥かしさで胸がキュンとしてしまう。なんだろう。全身が溶かされそうなほど熱い。
「ちゃんと言葉にして伝えられて、よかった」
三野は赤くなったまま固まっている沙菜の顎に手をかけ、心持ち上へと向かせる。そのままキスをしようと顔を近づけた。
その時だった――
「お疲れ様です! あれ、先生? またお会いしましたね! 玄関しまってましたか? 鍵開けますよ!」
なんと、先程の夜警さんが階段から降りてくるではないか。手には懐中電灯を持っており、三野と沙菜の姿を煌々と照らしてくる。
(なんでエレベーターで上がったのに階段で下りてくるのこの夜警さん!!!)
沙菜は心の中で悲鳴を上げるしかなかった。
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