感謝の言葉

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 裕翔と出逢ったのは大学のゼミで,真由華にとって初めての彼氏だった。  遊び慣れた裕翔には一緒にいる時から何度も傷つけられ,ふらっと部屋に来ては真由華を抱いて帰って行った。  いつも裕翔は実家暮らしだからと言って真由華のマンションに泊まることを嫌い,終電に間に合う深夜十二時前に帰って行った。  それでも真由華は裕翔が好きで,いつも部屋に残る煙草の残り香に包まれて朝まで温もりを求めてベッドで微睡(まどろ)んだ。  裕翔が使った濡れたままのタオルが浴室に掛けられ,一人になった真由華はいつもそのタオルで鏡に飛び散ったポディソープの泡を拭いた。  いつも一方的に連絡をしてきて,好きな時にマンションに来て性欲を満たすために真由華を抱いたら帰る。初めて異性と付き合う真由華にとって,それが恋人関係なのかはわからなかった。  それでも男に求められることに喜びを感じていた。 「明日も早いから,そろそろ帰るよ」  毎回スマホを気にしながら部屋を出る裕翔の背中を見ながら,真由華は心の中で『せめて嘘くらい,ちゃんとついてよ……』と呟いた。  そんな裕翔とも大学を卒業し,お互いに社会人になって生活のリズムが変わると最初から決まっていたかのように一方的なお別れをした。  裕翔は営業職であちこち飛び回り,真由華は研究職で深夜まで仕事をすることが多かった。  忙しい毎日は真由華の裕翔に会いたいという強い気持ちを和らげてくれだが,別れた後も裕翔からの連絡を無意識に待っていた。  日常でも街中に漂う香水の香りや喫煙所の近くに行くと,ふとした瞬間に裕翔を思い出してしまい,胸が締め付けられた。  その度に裕翔のSNSを覗きに行ったり,裕翔と彼の友達の名前を検索して自分が知らない裕翔がいないか探してまわった。 「いつでも連絡していいのに……仕事の愚痴があれば全部聞くのに……私ならあなたのことを全部受け入れてあげられるのに……SNSで愚痴るくらいなら私のところにきて好きなだけ抱いていいのに……」  スマホに残った裕翔との画像を眺めては,自ら身体を戒めるかのように大きく開いた股に爪をたてた。
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