感謝の言葉

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 お店から家まで大きなビニール袋に入った綿を抱きしめて歩いて帰ると,マンションのエレベーターにのって自室のある階へとあがった。  近くの街灯から差し込む冷たい青い灯りがドアの鍵穴を照らし,ゆっくりと特殊な形状の鍵がカチリと小さな音を立てた。  何もない玄関を通り,リビングの端にビニール袋を置いてから,大量の除湿剤と脱臭剤が敷かれたブルーシートの上で,椅子に座らせられた姿の裕翔の頬にキスをした。 「ただいま。いい子でお留守番できたかな?」  特殊なローションを塗り込まれ茶色く変色した裕翔の身体はパンパンに膨れ,人形のように無表情のまま不自然に座らせられていた。 「いい子にお留守番ができた裕翔君にいつものお土産!」  嬉しそうに裕翔の頬にキスをすると,お店の袋から綿の入ったビニール袋を取り出し,綿を出して手で引き千切って細かくした。  鼻唄を歌いながら綿を引き千切る作業を繰り返していくと,綿がふわふわになりボリュームが一気に増した。 「さぁ,ご飯ですよぉ〜」  裕翔をベッドに移動させると,関節が不自然に曲がったまま仰向けに寝かせ,腹部に通された太い糸を抜いて大きく広げた。  既に大量の綿が詰められている身体にふわふわになった綿を足していきながら肌の膨らみを確認していった。 「難しいな……指先や出っぱっているところが取れていっちゃう……どうにかできないかな?」  竹製の菜箸で細い部分に綿を詰め込んで行くが,乾燥した肌は簡単に皺になり,そこから破れていった。 「お店のオバちゃんにやり方を教わったほうがいいのかな? ネットで調べたやり方だとこれであってるんだけどな」  裕翔の唇にキスをして,頬を両手で優しく包んだ。 「眼も変えないと。裕翔の眼はもっと黒くて大きいのに。ちょっと茶色過ぎちゃったな。お店で見た時はこれが一番綺麗だったのに」  青い灯りに照らされた裕翔の瞳は反射して光り,薄い茶色のガラスが安っぽく見えた。
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