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「ねぇ、昨日の『ミラ恋』見た?」 「見たよー! マジでヤバかった! タカオがミコにプレゼント渡すところとかぁ」 「あー! それネタバレだから! うちまだ全部見れてないんだって!」 「マジで? 話せないじゃーん」  五年一組の教室にとてもよく響く、クラスで目立つ女の子たちの声。最近流行ってる、恋愛リアリティーショーの話をしてるみたい。わたしは見たことないから、わからないけど。  先々週、五月の頭の週に行われた席替えで、わたしはあの子たちと席が近くなった。今日みたいに、あの子たちより遅い時間に登校すると、わたしの席の周りは、こんな感じでおしゃべりの場所になっちゃってる。  でも、残念なことにわたしには、「ちょっとごめんね~」なんて言いながら、あの子たちのおしゃべりの場に突入する勇気はない。  仕方がないから、教室のすみっこで、おしゃべりが終わるのを待つことにしたわたし。  その結果、朝の会のチャイムが鳴ってから、あわてて着席することになった。  学校は、不思議な場所だと思う。  誰だって絶対に行かなきゃならない場所だってことは知ってる。それなら学校は、みんなにとって平等な場所であるはず。  だけどクラスには、“強い子”と“弱い子”がいる。理由はよくわからないけど、気がついたらそうなってる。  今の五年一組で言うと、“強い子”はさっきの目立つ女の子たちのグループ。みんなとってもオシャレで、流行りに詳しい。普段の学校生活でも、なにかとリーダーシップを発揮(はっき)する子たち。あとは、足が速い男の子とかも、“強い子”にあたるだろうな。  わたしは、“弱い子”。みんなの前に立つこととか、意見を言うこととかは苦手。そもそもさっきみたいに、“強い子”に話しかけることも得意じゃない。いつも、“強い子”が動かしてくれるクラスの中で、なんとなく時間を過ごしてる。  (らく)でいいんだけどね。とっても。  気がついたら、今日の授業は全部終わって、放課後になっていた。  荷物をまとめたわたしは、すぐに教室を出る。  学校から家までは、歩いて十五分くらいだから、そんなに遠くない。  周りは、友達とお話しながら帰ってる子ばっかり。なんかちょっと、気まずいな。 「あっ! すみませーん!」  えっ?  急に話しかけられてビックリした。  同い年くらいの女の子だった。でも、ランドセルは背負ってない。みずみずしいオレンジのような色をしたツインテールが、太陽の光でかがやいていた。 「これらのことに、心当たりありませんかー?」  そういって、抱えていたチラシの束から、一枚わたしに手渡す女の子。  こ、こういうの苦手なんだけど……。お母さんにも、あんまり受け取るなって言われてるし。ひとりで歩いていたから、ねらわれたのかな。まあ、この場所は人通りも多いし、何かあっても助けは呼べるよね……。  おずおずと受け取ったチラシの内容を見て、わたしは首をかしげた。 「……“はぐれた仲間を探しています”?  全部で六人。音楽団のメンバー……。  特徴は虹の色。赤、オレンジとばして黄、緑、水色、青、そして紫……?」 「あ、もしかして、何か知ってるの?」  女の子は、グイグイわたしに寄ってきた。 「えっ? あ、いえ、知りませんけど……。  っていうか、このチラシ、写真とかないから、もし見かけてたとしてもわからない……」 「そうなんだよ~……。  いや、これに関しては、完全にアタシが悪いんだけどね? アルバムに頼って、写真を自分のもとに保存するのを忘れてたっていうかー……」 「へ、へぇ、なるほど……。  それじゃ、わたしこの辺で失礼しま」 「あ、待って! それなら、こっちはどう?」  女の子が、わたしの腕をつかんだので、ギョッとした。なんていうか、この子、初めて会ったのに距離が近いよ。フレンドリーすぎるよ。  断ってその場を離れる、なんてこともできない。仕方なく、女の子が指さしてる、チラシの下の方を見る。 「……“「楽しい!」が集まる場所、募集中!”  ……なにこれ?」  こっちに関しては、そもそも意味がよくわからない。 「これは、上の仲間探しの延長って感じなんだけど。  なんかこう、思わず体が、ぶわっ! ってなっちゃうような、「楽しい!」って気持ちが集まってるような場所、なにか知らない?」 「ちょ、ちょっとよくわからないけど……。  特に心当たりは……」 「そっかぁ~……。  うん、どうもありがとう! それじゃぁね!」  女の子はようやくわたしの腕から手を離して、どこかに走っていっちゃった。  な、なんだったんだろ……。なんか変わった子だったな。  って思っていたら、十秒後に女の子が走って戻ってきた。 「あのさ! ちょっとお願いがあるんだけど」 「な、なに?」  女の子は、一枚の紙をわたしの目の前に広げた。さっきのチラシとはまた別のもの。というかコレ、町内会のチラシだ。 「アタシ、これに行きたいんだ!」  女の子が指さしたのは、地域のふれあい演奏会の案内。地元の中学校の吹奏楽部が、演奏会を開くみたい。  ちなみに、行われるのは今週の土曜日。 「……行ったら、いいんじゃない? 楽しそうだね」  わたしが言うと、 「一緒に行こうよ!」  キラキラした目で、女の子は言った。 「え、なんで!?」 「アタシ、この辺に住んでるんじゃなくて。だから、この辺りのことは全然知らないんだ。誰かに案内してほしいの。  あなた、見たところ同い年くらいっぽいし、わりと暇そうだし、ちょうどいいかなって」  なんか、ちゃっかりバカにされてる? ちょうどいいって何。 「それに、あなたもコレ、楽しそう! って思ったんでしょ?」 「いや、……別に。そもそも、“ふれあい”っていうのが、なんか苦手だし……」 「この日予定ある?」 「……ない、けど」  ある、って言っておけばよかったのに! 「じゃあ決まり! そうだなぁ、ここで待ち合わせにしよっか! 時間は、10時でどう?」 「え? えっ?」 「そうだ! まだ自己紹介してなかったね。  アタシは、ソルカ! 10歳、よろしく! あなたは?」 「え、ふ、風梨です……。10歳……」 「おお! やっぱ同い年だー!  それじゃあ、よろしくね、風梨! まったねー!」  始めっから呼び捨て!? 距離感バグってるよ、あの子。  なにはともあれ、なんかとんでもない約束が交わされてしまった。  ど、どうしたものか……。
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