妄想のなかの現実

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 住宅街をふらふらと歩く祥一朗の前に,小さな女の子が街灯の下でぽつんと立っていた。  子どもが外をうろつく時間ではなく,少し離れた繁華街には酔っ払いも多いことから少女がそこにいること自体が不自然だった。  女の子は綺麗なワンピースを着て,長い真っ直ぐな髪の毛を一つにまとめていた。 「なんだ……? 子どもか? こんな時間になにやってんだ?」  街灯の下に立つ少女は可憐で,その場をやけに明るく照らした。  そしてふらふらと歩く祥一朗を見ると,ゆっくりと顔を上げにっこりと微笑んだ。 「こんばんわ」  突然の挨拶に戸惑い,足を止めたまま言葉が出ず,喉の奥から微かに漏れる息のように挨拶を返した。 「こ……こんばん……わ……」  不思議なくらい足が震え,目の前の少女の一言にどう反応したらよいのかわからず肩に掛けたギターを落としそうになった。  こんな夜中に街灯の下で親の帰りを待っているのか,近所の子が外の空気を吸いに家から出たところなのか,あまりにも場違いな少女にどうしてよいのかわからず混乱した。  少女は祥一朗を見て微笑むと,静かに視線を逸らし遠くを見た。 「す……すみませ……ん……ま,前を……通ります……」  ひどく猫背になりながら少女の前を横切るように歩いたが,祥一朗は自分でも情けなくなるほど足が震えているのがわかった。 「ふふふ……こんばんわ,オジさん。オジさん,ギター弾けるの?」 「え……?」  突然話しかけられたことに驚き,よろめいて車道に出た。 「あ……はい……あの……ギター弾けま……す……」  明らかに小さな女の子に敬語で話す自分が情けなく,ひどい猫背のまま俯いてどうしたらよいのかわからず汗ばんだ手を握り締めた。 「私は莉央(りお)。オジさんは?」 「あの……えっと……祥一朗です……古田……祥一朗です……」  汗ばんだ手でシャツを握り締め,俯いたまま少女の言葉を黙って待った。 「オジさんはバンドマンなの?」 「いや……あの……一人でギター弾いて……歌……歌ってます……」 「そうなんだ。凄いね」 「え……?」
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