金木犀の丘

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 三年前に季節外れのお花見といって初めて豊久が富子この丘に連れてきてくれたとき,両親を失い,精神的に弱り切っていた富子は無意識に自分の死に場所を探していた。  咲き乱れる金木犀の花びらが風に吹かれて宙に舞い,辺り一面を橙黄色に染める光景を見て富子はここを自分の死に場所にしようと心に決めた。  それがいま,目の前で豊久が崩れ落ち,人間であった形跡を僅かに残してこの丘の上で黄金色の絨毯に埋もれている。 「大丈夫。待っててね。私はあなたから離れないから。このまま二人で金木犀の花びらに溶け合うの。私のすべてはあなたのもの。心も身体もお金も家族も全部。全部あなたに奪われた」  三年前に両親を失い精神的に不安定だった富子は,優しく接してくれる豊久を頼るように,言われるがままにこの丘へと一緒に来た。  あの時は気分転換にと,季節外れのお花見という名目でドライブに誘ってもらえたと喜んでいた自分が可愛いと思えた。  それは(わら)にも(すが)りたいと思っていた富子の幻想にしか過ぎず,豊久は優しくキスをする代わりに乱暴に自由を奪った。  その直後,無理矢理車から引き摺り下ろされた。豊久の後ろを走っていた複数の車から見知らぬ男たちが降りてくると,富子の身体が宙に浮いた。  どれくらいの時間が経ったのかはわからないが,目の前は赤黄色に染まり,空から降ってくる小さな花びらがすべての嫌なことを包み隠してくれるような気がした。  金木犀の木の下で見知らぬ男たちに暴力をふるわれ,服を引き千切られ,焼けるような痛みが下腹部を襲っている間,豊久は嬉しそうに美しい笑顔を富子に向けながら動画を撮影していた。 「ああ……素敵。死のうとしていた自分にこんなクソみたいなイベントがあるなんて,なんて素敵なの。これから先,あなたを殺すことを生き甲斐にできる」  富子は男たちに犯されながら,身体を引き裂かれる痛みと心の奥底から滲み出る不快な喜びとともに咲き乱れる金木犀の花びらの美しさを脳裏に焼き付けていた。 「ああ……なんて素敵なの。私は生き甲斐を与えられたのね。もう大丈夫。心配しないでね。あなたを含めて全員殺してあげるから」  喰いしばる唇からも血が滲んだが,男たちは容赦なく富子を犯し続けた。
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