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黄金色に染まった肉塊に火のついたライターを近づけると,碧い炎をゆらゆらさせながら富子の背丈ほどの火柱を立てた。
パチパチと軽い音を立てながら炎がゆっくりと拡がっていくと,赤黄色い花びらが地面から空中へと一斉に舞い上がった。
「ああ……綺麗……なんて素敵なの……これが地獄の光景だとしたら,こんな素敵な世界はない……」
炎に煽られて宙に舞う橙黄色の花びらがその端を碧く燃やしながら山々へと散っていった。
富子の指先にも炎が燃え移り,花びらのように赤黄色く染まった爪がパチンと音を立てて割れて散った。
指先を焦がしながら燃えあがる両手を高く掲げ,金木犀の花びらを掴もうとすると,花びらは富子の手を避けるように舞い,あちこちへ炎を拡げていった。
「ああ……素敵……私と彼を包み込む暖かい炎と赤黄色い花びら。ああ……これがあなたが連れて行ってあげるって言ってたお花見なのね……」
碧い炎は豊久と富子を包み込むと,一気に延焼して近くの車を巻き込んだ。
山の中の小高い丘に生える金木犀も炎を纏い,ゆらゆらと揺れるようにその枝と花を燃やしていった。
「素敵……私……お花見って初めてなの……三年前に融資を止められて自殺した両親は私をお花見になんて連れて行ってくれたこともなかったから。あなたが初めて私をあの家から連れ出してくれた……」
燃え盛る炎の中で富子は嬉しそうに涙をこぼし,跪いて小さな山になった肉塊を優しく抱きしめた。
「ああ……いまならわかる……本当は……私はあなたに抱きしめて欲しかった……この金木犀の花に包まれて,あなたにキスをして欲しかった……」
炎が顔を焼き,髪の毛を散らすと鼻と耳が焼け落ちた。
頭から顔にかけて皮膚が焼けて弾けると,肉が落ち,すべての歯が剥き出しになった。
「ああ……一度でいいから,あなたに抱きしめられてみたかった……あなたと初めて会ったとき,私は子供だったから……なにもわならなかった……」
ガクンと首が垂れ,前屈みにひざまづくと,項垂れたまま焼け落ちて瞼も唇もない顔で笑顔を作ろうとした。
「ああ……本当にクソよね……私の人生ってただのクソよね……」
残された頬の筋肉が痙攣し,瞼のない瞳がポンっと音を立てて破裂した。
「ああ……こんなクソみたいな人生だと……結局小さな望みも叶わないのね……」
ゆっくりと燃え続ける富子の背中が音を立てて弾けると,覆いかぶるようにして肉塊の山を抱きしめた。
焼け焦げて赤黒くなった身体に降り積もる金木犀の花びらが,富子を燃えるような赤黄色に飾り立てた。
炎に包まれた山が真っ赤に燃え上がり,上空を真っ黒く塗り潰すと,金木犀の花びらが舞い散り上書きをするかのように空を橙黄色に染めた。
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