柿の木の男

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 柿の木がミシミシと音を立てたが,男がロープから抜けることはなく,身体をくねらせながら『誰?』と繰り返した。  晴人にしがみつく少女たちが男から逃げようとして,石の前で屈んでいる晴人の身体を引っ張った。  少女たちに引っ張られて晴一瞬呼吸ができなくなったのか,晴人は大きく一呼吸をついてから立ち上がりゆっくり振り返り笑顔を見せた。 「たぶん,犬か猫のお墓だと思うけど,随分と人間みたいな名前をつける人たちだったんだな」  両腕と両腕に絡みつく,よく見れば手脚のあちこちがなくなっている少女たちが佳世を睨みつけて歯のない口を大きく開いて威嚇した。 『この人くれたらぁ……あんたは連れてかないからぁぁぁぁ……ねぇぇぇ……ちょおだあぁぁぁぁいぃぃぃぃ……』  佳世はしっかりと掴まれた晴人を見て,なぜかもう晴人はこっちの世界にはいられない気がして無意識に頷いていた。 『ありがどぉぉぉ……この人もらったぁぁぁ……あいつから守ってもらうぅぅ……』  柿の木に縛り付けられた男が笑顔で身体を捻っていたが,ギシギシと音を立てるだけだった。  そんな異様な光景にも晴人はなにも感じることなく佳世を見て笑顔をみせた。 「たぶん,犬か猫のお墓だと思うけど,随分と人間みたいな名前をつける人たちだったんだな」 「ねぇ,怖いからもう行こうよ」 「ああ……そうだな。人様の土地に勝手に入ってお墓なんてもんを見つけちゃったら,なんとなく気持ち悪いもんな……」  晴人が一歩前に出ると,少女たちの身体が千切れてその場に崩れ落ちた。  男が笑顔で身体をよじり,関節をおかしな方向にむけると,足元から伸びる木の根と同化しているロープの一部が少女たちとつながっているのが見えた。   「ねぇ,帰ろう……」  少女たちが助けを求めるかのように伸ばした手は細くなり,晴人のの手を必死に掴もうとしたが,男は笑顔をみせたかと思うと何かいいかけてそっと目を閉じた。  少女たちの苦悶に満ちた表情が佳世の胸に突き刺さり,恐怖に混ざって少女たちを助けたいという気持ちが芽生えた。  佳世は近づく晴人の胸をそっと押すと,ふざけているのかと勘違いして二歩三歩と笑顔で下がった。  その瞬間,少女たちが晴人の手を握りしめて 『もう手を離さないで』と呟いた。
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