柿の木の男

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 ベランダに垂れ下がるロープが柿の木へとつながり,もう一つの端はマンションの中へと伸びて佳世の足首に絡みついていた。  晴人が消えて以来,佳世は部屋に引き篭もり,外出しようにも足首に絡みついたロープが自由に外へ出させてくれなかった。  しかし陽が落ちて暗くなるとロープが佳世の脚を引っ張り,強制的に柿の木の元へと引き摺っていった。 「嫌……嫌……嫌……嫌……」  ロープは佳世を軽々と引き摺り,空き地へと連れ込むと石の脇を通して柿の木へと引き寄せた。 「お願い……許して……お願い……嫌……嫌……」  柿の木につながれた男は笑顔で佳世を引き寄せると,放心状態になった佳世の身体を抱きしめて好き勝手に恥辱し若い女の身体を弄んだ。  柿の木のすぐ近くにある墓のような石には少女たちの名前が消え,薄らと「佳世」と新しく彫られていた。    晴人がいなくなってから毎晩のように柿の木の下へ引き摺り込まれると,笑顔の男に抱き寄せられ,佳世の意識は朦朧とし,身も心もボロボロになるまで一晩中抱かれた。 「ごめんね……ごめんね……全部私がいけないの。本当にごめんね……」  そして日が昇るころに部屋に戻され,一人で泣き続け,帰ってくるかもわからない晴人に会いたいと願った。  僅か一週間前にもかかわらず記憶が曖昧になり,最後に見た晴人の姿は少女たちに腕を掴まれ,玄関から消えていくところだった。 『ありがとぉぉぉ……この人を連れて行くねぇ……連れて行ってもらうねぇ……ねぇねぇ……これからぁぁ……ずっとずっとよろしくねぇ……』  少女の瞳は本当に嬉しそうで,柿の木に縛られた男から解放さることを確信していたのを佳世はいまになって知った。  晴人がいなくなって一週間,男に弄ばれて迎えた朝は台風の影響で真っ黒な空が唸り,遠くで落雷が光った。  一瞬で空が暗くなり,激しい雨が窓ガラスを叩く音が部屋に響き渡ると風が唸り,マンション全体が地鳴りのような音を立てた。  佳世は暗い部屋のなかで一人で泣き崩れ,いつ帰ってくるのかわからない晴人の帰りをひたすら待った。 「ごめんね……ごめんね……全部私がいけないの。本当にごめんね……」  佳世の後ろにはずぶ濡れになった男が笑顔で寄り添い,ボロボロのロープを佳世の首に巻きつけ後ろから強く抱きしめた。 「ゴレガラァ モォォ ヨロジグゥゥゥゥ」  柿の木から伸びるロープが二人の身体に絡みつき,男は笑顔で佳世を抱き寄せた。そして満足そうに放心状態の無抵抗な佳世の顔をゆっくり舐めると,首に巻きつけられた血で赤く染まったロープを引っ張り微笑んだ。
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