雨降る森の静かな隣人

2/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 殺人鬼に拾われた。  オレが連れていかれたのは、ヤツの住処だった。  メチャクチャ古い小屋で、一見すると誰も使っていなさそうな場所。  電気も通ってない。  しかも屋根は壊れているのか、ところどころ雨漏りしていた。  かろうじてドアは付いているけれど、ヤツが乱暴に開け閉めするせいで、ちょっと歪んでいる。  ヤツはそんな場所にオレを連れて来ると、多少は綺麗なタオルを使って、ずぶ濡れのオレを拭いてくれた。  そして足とか腹とか、なにかを探すようにオレの身体を確認していく。  それが終わるとヤツはオレを置いて、小屋の奥に向かっていった。  正直すごく帰りたい。  もともと野良だから家なんてないけど、ここではない、どこかへ逃げ出したかった。  しかし下手に森の中を歩いて、迷子にはなりたくない。  オレは薄汚れた窓から、外を眺めた。  もともと鬱蒼とした森だったが、殺人現場を目の当たりにして、おどろおどろしさが増した気がする。  こんな場所では滅多に人は来ないだろう。  何より永遠と降る雨が、血塗れの惨状を隠してしまいそうな勢いだ。  この森は雨が止まないことで有名らしい。  理由は不明。  ここに来る途中で遭遇した連中が、そんなことを話していたのを覚えている。  ちなみにソイツらは、さっき男の手で殺された。  そしてオレは、飯をくれたソイツらに付いていった結果、あの惨劇に出くわしてしまったのだ。  飯だけで付いていくべきじゃなかった。  本当に反省している。  そんなことを考えていると、男が帰って来た。  ボロい机に、なにか置かれる。  魚だ。  しかも既に焼かれた状態で出されている。  顔をあげると、男は無言でオレを見下ろしていた。  食えと促されているような、そんな圧力を感じる。  さすがに毒は入ってないだろ。  そう思いつつ、オレは恐る恐る魚を食べた。  もごもごと口を動かす。  口に含んで気づいたが、骨も既にほとんど抜かれていた。  腹が減っていたオレは害がないことを知り、思わずバクバクと食べ始める。  魚は、オレの大好物だ。  野良になってから久しく食べていなかったため、オレは魚の味に夢中になる。  身がしっかりしていて旨い。  あっという間に魚を平らげてしまった。  オレは男を見上げる。  ずっと見ていたのか、男はさっきと同じ姿勢だった。  男はゴミを適当に片付けて、オレの傍に、ちょっと臭い毛布を置く。  そこがオレの寝床になるようだ。  男の意図を察して、オレは用意された毛布の上で丸くなった。  そんなオレの様子を見届け、男はようやく離れていく。  なんだか飼われてるみたいだ。  そう思ったが、飯も寝床も用意された今、その考え自体あながち間違ってはいないだろう。  オレは黴臭い毛布のうえで、うつらうつらと船を漕ぎ始める。  腹も膨れたから、あとは疲れた体を癒すのみ。  そう考え、すぐに目を閉じた。  それにしても、どうしてアイツはオレを殺さなかったんだろう?  疑問は解消されることなく、現実に置き去られた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!