雨降る森の静かな隣人

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 一日、また一日と時間が過ぎていく。  オレは男に殺されることなく、雨降る森で生きていた。  小屋の中は、人の存在を感じさせることはない。  それほど男の行動からは、物音一つ聞こえやしなかった。  まるで死体と一緒にいるみたいだ。  なんとなく、そう感じた。  けれど可笑しいことに、気づいてしまう。  なんで人殺しの男を、死んでいるように思ったのか。  オレの視線は依然、外の方へ向けられる。  いっこうに止む気配のない雨。  降り続く雫のなかで揺れる、大きなてるてる坊主が嫌でも目に付く。  大がかりな飾りのクセに、ぜんぜん役に立ちはしない。  外に出ることも憚られ、オレは何となく男を見た。  身動ぎ一つ見せず、壁を背に座る男。  今は電池が切れたように目を閉じている。  けれどオレが少しでも近づくと、スイッチを切り替えたように、パッと目が開かれるのだ。  ハッキリ言って、ちょっと怖い。  そんな男だが、てるてる坊主を作って以降、限られた時間にしか動かなくなった。  ソイツは決まって夕方に、バケツを持って小屋を出る。  そして数時間ほど経過してから戻ってくるのだ。  下処理済みの魚を携えて。  もちろん魚は、オレの飯だ。  不思議なことに、男が飯を食っているところは、見たことがなかった。  もしかしたら外で食っているのかもしれない。  だが、この森は雨ばかりのせいか、あまりオレたち以外の動物を、見かけたことはなかった。  人間は動物の肉も食うが、この男は魚しか食わないのだろうか。  そんな疑問が頭を過り、ふと思考が停止する。  一日三回、きっちり与えられる食事を思い出し、身体が震えた。  恐ろしいことに、気づいてしまったのではないかと思う。  ……まさか、この男…………オレのことを、食おうとしているんじゃないよな……?  疑惑が頭を持ち上げる。  野良のクセで、出された飯は全て食べてしまっていたが、コイツ初めから、それが目的でオレを飼い始めたんじゃ……?  降って湧いた疑念が、確信に変わっていく。  逃げねば……逃げなければ!  オレは脱走計画を目論んだ。  脱走後のことは、後で考えることにした。
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