雨降る森の静かな隣人

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 オレは男の小屋に戻ることにした。  別にアイツが、オレを無理やり連れ帰ったんじゃない。  置いていこうとしたから、オレが勝手についていったんだ。  むしろ、何で置いていこうとしてんだと思った。  飼うなら責任もって飼えよ、人間なんだから。  そんなわけで小屋に戻ってきたけど、以前と変わったことがある。  アイツが外出する時、扉が開けっぱなしにされていることが増えたのだ。  たぶんオレが脱走したからだと思うけど、理由はよく分かっていない。  もしかしたらオレが散歩するものだと、思われているのかもしれない。  以前と同じく、飯は一日三回食べているけど、まだオレは食べられていない。  もちろん、ねこてる坊主にもされていない。  しばらく一緒にいると、それもなんだか杞憂に思えてくる。  森は相も変わらず雨ばかり。  でも最近、雨の力加減(というのかは分からない)が、なんとなく分かって来た気がする。  たとえば今日は、少し雨足が弱い。  それに最近、ちょっとだけ雨は嫌いじゃなくなってきた、と思う。  全部オレの気分に寄るものだけど。  当然だが、アイツはなにも変わっていない。  ときどきフラッと出かけては、飯を取ってきたり、たまに迷い込んだ人間の首を持ち帰ってきたりと、異常な生活を送っている。  本人が異常と捉えているかは不明。  一言も喋らないし、コイツ自身のことをオレは何も知らない。  でも別に、それで良かったりする。  だってコイツも、オレのこと何も知らないし。  他の人間みたいに、ベタベタ構ってこないから、思いのほか傍にいても落ち着くのだ。  たぶんオレは、自分で思っているよりコイツのことを、気に入っているのだろう。  人殺しだし頭イカれてるけど、オレのご主人様に変わりはない。  そう思うと、コイツの傍にい続けるのは、なんだか悪い気がしなかった。  気配もなく近づく隣人を、悪い奴だと分かっていても、オレは嫌いになんてなれなかったのだ。
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