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──時は満ちた。
その人物は、小型ナイフでバサリと髪を切り落とした。
伸び放題だった髪が闇に溶け、パソコンの画面から発せられる光に、その顔が露わになる。
まだ少年といっても差し支えなさそうな容貌である。
──愚かな男だ。疑いもせず、尻尾を振って擦り寄ってくるとは。
その人物は見開いた目を煌々と光らせ、悍ましげな笑みを浮かべた。
その様相は、およそ少年とは思えない。
闇に棲む亡霊のようであった。
【変わった人だ。
顔を変えてしまえば、絶対的に安心な未来が手に入るというのに】
チャット画面に、新しいメッセージが表示される。
その人物は、くぐもった笑いを零すとパソコンに向かった。
「これは決定事項です。代わりと言っては何ですが」
勿体ぶるように手を止める。
「あと1人、確実にそちらへ向かう筈だ。この命を賭けてもいい。
その時には──」
伝えるべきことを伝えると、その人物は恍惚として闇を仰いだ。
笑いが止まらない。ついに、この時が来たのだ。
【……面白い。契約成立としましょう】
時は満ちた。
【過去を隠し通せるかどうかは、あなた次第。
楽しみにお待ちしております。
──東京湾の魔女】
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