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「お弁当、食べ損ねたんです」
西見凛は、そう言って赤身のステーキを注文した。
夜のファミレスで、つぐみは凛と向き合って座っている。
コンビニからの帰路、突然声をかけられたのだ。
「いつまで付き纏うつもりですか」
「偶然よ。ここ通り道なの。
でも良かった。出直す手間が省けたわ」
凛は軽い調子で言うと、ステーキを頬張った。
この時間でも店内は賑わっている。
背もたれが高いテーブル席が多く、騒音で会話に苦労することはない。
──この女、何を言いにきた?
つぐみは、ゆっくりとホットティーを口に含んだ。
「五百扇さんはまだ岐阜です。
遺体の鑑定中。でも、すぐ分かると思いますよ」
そう言って一旦言葉を切り、凛はステーキにナイフを入れた。
「雪彦さんのDNAと照合すれば。
何と言っても家族……一卵性双生児ですから」
だから何だというのか。
つぐみは、ステーキを口に運ぶ凛を盗み見た。
凛が、ふいと顔を上げる。
つぐみと目が合うと、口の端についたソースを指で拭った。
「彼氏の話をしてるのに、あまり興味が無さそうね。
前から思ってたの。あなた、雪彦さんを愛してないでしょう」
つぐみが予想だにしない切り込み方だった。
この女は雪彦を、事件を追っているのではなかったのか。
つぐみは身構え、下から掬うような目つきで凛を窺った。
「そう! その顔、その目よ! 直接確かめたかったの」
高らかな声が浴びせられる。
「あなた、顔は変えてないでしょ」
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