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「つぐみ? どうした、真っ青だよ」
雪彦に声をかけられて我に返る。
つぐみは曖昧に笑い返した。
しかし、その作り笑いはすぐに複雑な表情へと変化してしまう。
──真実を知る者は、もういない筈。
つぐみにとっては願ってもない状況が、かえって恐怖を増幅させた。
都合が良すぎるのだ。
「送って行こうか? それより、ここで少し休んだら?」
優しげに肩を抱いてくる雪彦を振り切るようにして、つぐみは部屋を出た。
まさか雪彦の犯行では、と考える。
凛には相当しつこく付き纏われていた。
5年前の事件について、嗅ぎ回られては都合の悪いことがあったのではないか。
しかし。つぐみは重たい気分でそれを否定する。
あの日、雪彦はまだ岐阜にいた。
他に誰がと考えて、つぐみは愕然とする。
最重要容疑者は、他でもない自分ではないか。
あのファミレスでの出来事は、多くの人々に目撃されているに違いない。
──雪彦の傍には、もういられない。
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