迷宮

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迷宮

 毒殺事件の捜査状況は(かんば)しくなかった。    西見凛を死に至らしめた青酸化合物は、溢れたコーヒーと紙製のカップから検出されている。  自宅マンションにほど近いコーヒーショップはすぐに判明し、まずは店内が徹底的に調査された。  予想された結果だが、店内からは何も出ていない。  店内を映す防犯カメラも調査された。  これも西見凛の様子は確認されたが、混み合った店内で特に異常があるとは判断されなかった。  コーヒーショップで購入したコーヒーに、どうやって毒物を混入させたのか。  考えられるのは、予め用意していた毒物を自分で購入したコーヒーに混入し、西見凛の物とすり替えるという方法である。  防犯カメラの映像では、受け取り専用のカウンター近くは混み合って見えなくなっていた。  ただ、現実的なやり方とは言い難い。  事前に同じ種類のコーヒーを用意するなど不可能に近いのではないか。  西見凛の生活サイクルや嗜好を熟知していたとしても、少しタイミングがずれれば計画は破綻する。  用意するのが早すぎればコーヒーは冷め、凛が手に取った時に不審に思われてしまうだろう。  店内でなければ外はどうか。  西見凛がコーヒーを購入後、帰宅途中に何者かが接触した可能性だ。  しかし、例えばぶつかった振りをしたとしても、毒物を混入するのは至難の業であろう。  この店のカップには蓋が付いているのだ。  そんな不審な人物と接触した後に、彼女がコーヒーを口にするとは考えにくい。    毒物の調査と並行して、西見凛のプライベートや仕事関係にも目が向けられた。  相当の野心家だったようだ。  フリーの記者であった彼女の記事は、巨大企業の特別背任事件から芸能ゴシップ、娯楽まで多岐にわたる。  その仕事ぶりはかなり強引だったらしく、彼女を恨む人間は方々にいた。  過去2回、訴えられている。  しかし、それらの人々のアリバイは間もなく成立した。  そして、西見凛が最も力を入れていたのが、5年前の『岐阜 資産家強盗殺人放火事件』である。
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