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警視庁捜査一課の小山内は、まんじりともせず和室の布団の上に起き上がった。
久々に自宅へ戻ったものの、考えるのは事件のことばかりである。
隣からは、妻の軽やかな寝息が聞こえてくる。
西見凛が追っていたのは五百扇雪彦。
5年前の事件で、ただ一人生き残った人物である。
この人物も、西見凛の執拗な取材攻勢に疲弊していた。
岐阜県警の綿貫によれば、彼も一度は容疑をかけられていたという。
証拠がなく容疑から外れたが、あの事件の犯人はまだ挙がっていない。
──もし、五百扇雪彦が5年前の犯人だとしたら。
「あら。あなた、眠れないんですか?」
出し抜けに声がした。
ナイトキャップを被った妻が、横になったままで目を擦っている。
猪首でずんぐりした小山内と対照的に、ヒョロリと背の高い妻だ。
「ちょっと腰が痛かっただけだ。おまえはもう寝なさい」
言い終わる前に、妻は既に鼾をかいている。
小山内は苦笑すると、再び思考の海に潜った。
五百扇雪彦なら、西見凛に恨みを抱いていてもよさそうである。
彼には動機がある。
しかし五百扇雪彦は、西見凛が毒殺された時刻には岐阜にいたことが証明されている。
皮肉にも警察関係者によって。
双子の弟とみられる遺体が山中で発見され、その日は岐阜県に滞在していたのである。
岐阜県警で事情を聞かされたり、遺体発見現場に同行して花を手向けるなどしていたようだ。
DNA鑑定によって、遺体は弟の五百扇影彦と証明されている。
雪彦に犯行は不可能だ。
これで、西見凛に恨みを持つと思われる人々のアリバイが全て成立したことになる。
岐阜県警の綿貫は、電話口で悔しさを滲ませていた。
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