迷宮

3/3
前へ
/44ページ
次へ
 1つ望みがあるとすれば、凛がコーヒーショップを訪れる前に来店したファミレスである。  ここで、凛が若い女性と同席していたことは捜査済みであった。  何らかのトラブルがあったらしく、凛の方が先に店を後にしている。  しかし、不特定多数の人間が訪れるファミレスでは、店員もいちいち客の印象など覚えていない。  捜査は、ここで行き止まっている状態であった。  その若い女性客の身元を突き止めたとしても、結局は毒物の入手や混入方法の謎に立ち戻ってしまうのだ。  西見凛の母親によれば、彼女は「間もなく仕事にキリがつく」と話していたという。  決定的な手掛かりを得ていたとみて間違いないだろう。  つまり、これを知られたくない者による口封じ──。    小山内は、腕を組んで深いため息をつく。  何としても迅速に犯人(ホシ)を挙げなければならない。  小山内にとっては胃の痛む日々が続く。  しかし。  毒殺事件は、これ以上の進展はなかった。  彼らは今後、当初はイタズラだと思われた一通のメールに翻弄されることになる。  事件後、西見凛の自宅は隈なく捜査された。  無論、主に仕事で使用されたパソコンもである。  仕事関係かと思われる未読のメールも数件あった。  その内の一通の送信元を辿ろうとすると──。  パソコンに何らかのウイルスが侵入し、全ての情報が消えた。      しかし。  警察を嘲笑うかのような、その短い文面が忘れられることはなかった。  【我に迫る者へ、天罰を。   ──東京湾の魔女】
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加