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1つ望みがあるとすれば、凛がコーヒーショップを訪れる前に来店したファミレスである。
ここで、凛が若い女性と同席していたことは捜査済みであった。
何らかのトラブルがあったらしく、凛の方が先に店を後にしている。
しかし、不特定多数の人間が訪れるファミレスでは、店員もいちいち客の印象など覚えていない。
捜査は、ここで行き止まっている状態であった。
その若い女性客の身元を突き止めたとしても、結局は毒物の入手や混入方法の謎に立ち戻ってしまうのだ。
西見凛の母親によれば、彼女は「間もなく仕事にキリがつく」と話していたという。
決定的な手掛かりを得ていたとみて間違いないだろう。
つまり、これを知られたくない者による口封じ──。
小山内は、腕を組んで深いため息をつく。
何としても迅速に犯人を挙げなければならない。
小山内にとっては胃の痛む日々が続く。
しかし。
毒殺事件は、これ以上の進展はなかった。
彼らは今後、当初はイタズラだと思われた一通のメールに翻弄されることになる。
事件後、西見凛の自宅は隈なく捜査された。
無論、主に仕事で使用されたパソコンもである。
仕事関係かと思われる未読のメールも数件あった。
その内の一通の送信元を辿ろうとすると──。
パソコンに何らかのウイルスが侵入し、全ての情報が消えた。
しかし。
警察を嘲笑うかのような、その短い文面が忘れられることはなかった。
【我に迫る者へ、天罰を。
──東京湾の魔女】
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